大阪高等裁判所 平成11年(行コ)49号 判決 2000年5月16日
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人(附帯被控訴人)が被控訴人(附帯控訴人)に対して平成七年二月六日付けでした法人税の更正処分のうち法人税額二億〇九六七万六五〇〇円を超える部分及び右更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分のうち右部分に対応する部分を取り消す。
2 被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。
二 被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴を棄却する。
三 訴訟費用(附帯控訴費用を含む。)は、第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
事実
第一申立て
一 控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 右取消しに係る被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)の請求を棄却する。
3 被控訴人の附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用(附帯控訴費用を含む。)は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 附帯控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。
控訴人が被控訴人に対して平成七年二月六日付けでした法人税の更正処分のうち法人税額七三七七万八〇〇〇円を超える部分及びこれに対応する過少申告加算税の賦課決定処分の一部を取り消す。
3 訴訟費用(附帯控訴費用を含む。)は、第一、二審とも控訴人の負担とする。
第二当事者の主張
次に付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、五頁一行目の「二九日」を「二八日」と訂正し、六頁七行目の「株式会社博多興産」の次に「(以下「博多興産」という。)」を加え、七行目から八行目の「栃木県那須郡所在の」、九頁八行目の「株式会社」及び「(以下「博多興産」という。)」を、各削除し、一〇頁八行目の「一二億七八八五万一〇〇〇」を「一二億八八八五万一〇〇〇」と訂正し、一一頁末行の「第一項一」及び一二頁一行日の「同項の二」の次に各「号」を加え、七行目の「⑦」を「⑥」と訂正し、一四頁三行目の「第三項」の次に「一号」を、一六頁五行目の「右3」の次に「の所得金額に対する法人税額九八五〇万七〇〇〇円」を、各加える。)。
(控訴人)
一 本件変態現物出資
被控訴人は、平成二年五月七日、博多興産から、本件変態現物出資により、本件土地及び保有土地の譲渡を受けたとされるが、本件変態現物出資は、右譲渡資産たる本件土地及び保有土地の価格合計全額について変態現物出資とは認められない。
1 通常の現物出資と変態現物出資は、新たに法人を設立するに当たり、出資行為の形式によるか取引行為の形式によるかの違いはあるにしても、法人企業の会計上、出資資産又は譲渡資産に相当する価格が新設法人の資本に組み込まれる点で共通しているから、変態現物出資は、譲渡資産の価格のうち新設法人の資本に組み込まれた部分に限り認められるべきである。
2 本件で、博多興産は、平成二年四月二六日、新たに金銭出資をすることにより被控訴人を設立し、同年五月七日、被控訴人に対し本件土地及び保有土地を代金合計一二億八八八五万一〇〇〇円で譲渡するとともに、山善に対する金一二億七八八五万一〇〇〇円の借入金債務を免責的に引き受けさせ、被控訴人から残金一〇〇〇万円の支払を受けている。
他方、被控訴人については、設立時の資本金が一〇〇〇万円、本件事業年度の末日である平成四年三月末日における資本金も一〇〇〇万円であり、被控訴人設立後、本件事業年度末までに被控訴人において増資されたことはない。
そうすると、本件変態現物出資は変態現物出資の形式を採っているが、真に変態現物出資であると認められるのは、譲渡資産たる本件土地及び保有土地の価格合計額のうち被控訴人の資本金一○○○万円に相当する部分(以下「自己資本部分」という。)に限られるのであり、その他残余価格に相当する部分(以下「残余価格部分」という。)は、単なる博多興産の被控訴人に対する譲渡にすぎないのである。
3 以上より、本件変態現物出資は、譲渡資産たる本件土地及び保有土地の価格合計額のうち自己資本部分に限り変態現物出資と認められる。
二 本件通達六二の二(1)・※三が定める要件の合理性
本件変態現物出資は、譲渡資産たる本件土地及び保有土地の価格合計額のうち自己資本部分に限り変態現物出資と認められるが、当該自己資本部分は、「新規取得土地等」から除外される「出資」には該当しない。
この点につき、本件通達六二の二(1)・※三は、措置法六二条の二第三項一号イ括弧書きの「出資」には、①法人税基本通達一〇・七・一※に定める要件に該当し、かつ②法人税法五一条の規定の適用を受ける土地等の取得が含まれるものとする旨定めており、前記①及び②の要件を具備した変態現物出資は、実務上「新規取得土地等」から除外される「出資」に該当するとの取扱いがされているため、本件通達が定める要件の合理性が問題となるのである。
1 変態現物出資とは、法人が新たに法人を設立するため現物出資することに代えて金銭を出資し、新設法人の設立後、出資法人が新設法人に対し、金銭以外の財産を譲渡することであり、これは、通常は、新たに現物出資をすることにより法人を設立する場合における商法上の厳格な規制を回避する目的でもって行われる取引行為であるから、安易に本来の事業目的のため取得したものと認めることはできず、文言上も、本制度の趣旨からも、当然には、「新規取得土地等」から除外される「出資」に含まれるものとは解されないのである。
しかし、変態現物出資であっても、通常の現物出資と同視し得る実質を有し、かつ譲渡資産がそのまま新設法人に内部的に移転するにとどまる実質を有している場合には、単に思惑や税負担回避行為からではなく本来の事業目的から、譲渡資産たる土地等を取得したものと認めても問題は生じないから、このような場合には、通常の現物出資に準じて同様の取扱いをするのが本制度の趣旨に沿うものと考えられる。
2 本件通達六二の二(1)・※三は、変態現物出資が「出資」に含まれるための要件として、①法人税基本通達一〇・七・一※に定める要件に該当し、かつ②法人税法五一条の規定の適用を受ける土地等の取得が含まれるものとする旨定めており、これらの要件は、変態現物出資が通常の現物出資と同視し得る実質を定めた要件として合理的であるし、法人税法五一条の規定の適用を受ける土地等の取得は、出資法人において同条一項所定の圧縮記帳の経理処理がされ、これにより課税未済の資産が新設法人に移転することになるから、当該資産は、そのまま新設法人に引き継がれ、単に内部的に移転するにとどまる実質を定めた要件としても合理的である。
三 以上によれば、本件変態現物出資のうち自己資本部分は変態現物出資であると認められるが、当該部分は、本件通達六二の二(1)・※三が定める②の要件を満たしていないから、措置法六二条の二第三項一号イ括弧書きの「出資」には該当しないし、また、残余価格部分は、単なる譲渡であり、前記「出資」に該当するか否かを検討するまでもなく変態現物出資と認められない。
したがって、被控訴人が本件事業年度の末日まで保有していた保有土地は、原則どおり「新規取得土地等」に該当することになるから、当該保有土地に係る負債利子は、本件事業年度の所得の金額の計算上損金に算入することができない。
(被控訴人)
一 博多興産における課税繰延べの措置と本件土地取得日の引継ぎの関係について
1 現物出資による会社分割は、企業会計では損益は発生しないとされるが、税務では、現物出資について出資会社(親会社)に「資産の譲渡」があるとして課税問題を生じさせている。しかし、特定現物出資(親会社が九五パーセント以上の株式を取得。変態現物出資については一〇〇パーセントの株式を取得)に該当するときは、例外として出資会社に課税問題が生じないとしているのである。
法人税法五一条は、出資会社のサイドの圧縮記帳ができることを規定しているのであり、出資会社の圧縮記帳の有無を問わず、現物出資がされたときは、被出資会社のサイドでは、企業会計の原則(法人税法二二条四項)と右の例外規定により、受入資産について取得日を引き継ぐものと解すべきである。少なくとも、特定現物出資の要件を充たしているときは、出資会社の圧縮記帳の税務処理の如何を問わず、被出資会社は受入資産について取得日を引き継ぐことができるものとすべきである。
2 このように子会社の発行済株式の一定割合以上を保有する親会社が子会社に対して行う本件のような特定出資は、実質的には会社分割のための方法として行われるのであり、親会社は子会社株式の保有を通じて出資資産を引き続き保有しているのであり、このような特定出資についてまで通常の資産譲渡と同視し、出資した資産の譲渡利益が親会社に実現したものとして課税するのは実情に合致しない。
そして会社分割という実態は、特定出資において譲渡益が出ない場合であっても変わりはなく、この場合においても親会社は子会社株式の保有を通じて出資資産を保有しているのであり、したがって子会社は親会社から資産の取得日を承継するのである。
問題の圧縮記帳による課税の繰延べは、資産の時価が簿価を上回った場合における技術的な措置にすぎず、圧縮記帳がされるから会社分割となる訳では決してない。
二 平成三年一一月七日当時における博多興産と被控訴人の関係について租税特別措置令三八条の四第二五項三号が、出資法人(とその子会社)は、新設法人が他に資産を譲渡した時点において、同法人の一○○分の九五以上の株式を保有しなければならないとしたのは、新設法人による資産の譲渡が出資法人(とその子会社)による資産の譲渡と同視される関係になければならないからである。
山善は、もともと博多興産に対する一○○パーセント出資の親会社であることから、博多興産の一○○パーセント子会社である被控訴人は、その設立の初めから、山善に間接的に支配されていたのであり、博多興産が被控訴人の全株式を山善に譲渡したことにより、右の間接支配が直接支配に変わっただけのことである。
したがって、山善こそが終始、被控訴人を一〇〇パーセント支配していたのであり、本件土地の真の所有者は山善であることから、博多興産が被控訴人の株式を山善に譲渡したからといって、本件土地の取得日が変動することはないのである。
ちなみに、措置令が出資法人の親会社による孫会社(新設法人)の支配について規定を設けていないのは、親会社が子会社を介して孫会社を支配していることはあまりに当然のことであるから敢えて規定する必要がなかったからであり、措置令が親会社による孫会社の間接支配を否認しているからではない。
理由
一 当裁判所は、被控訴人の本訴請求は、本件処分のうち法人税額二億〇九六七万六五〇〇円を超える部分及び本件処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分のうち右部分に対応する部分を取り消す限度において理由があり、その余は理由がないと判断するものである。その理由は、次に付加するほかは、原判決の認定説示と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決一九頁一行日の「第三項」の次に「一号」を、四行目の「第三項一」の次に「号」を各加え、六行目及び八行目の「同項イ」を各「同号イ」と訂正し、二三頁一○行目及び二四頁一行目の「小会社」を各「子会社」と訂正し、三行目冒頭の「項一」の次に「号」を加え、二五頁二行目の「趣旨」を「出資」と訂正する。)。
1 変態現物出資の範囲について
(一) 控訴人は、本件変態現物出資は変態現物出資の形式を採っているが、真に変態現物出資であると認められるのは、譲渡資産たる本件土地及び保有土地の価格合計額のうち被控訴人の資本金一○○○万円に相当する部分(自己資本部分)に限られるのであり、その他残余価格に相当する部分(残余価格部分)は、単なる博多興産の被控訴人に対する譲渡にすぎない旨主張する。
ところで、株式会社を分割して子会社を設立する際には、変態現物出資の形式を採るのが一般的であるといわれている。これは、商法に会社分割についての規定がなく、現行法の下で利用し得る営業譲渡、財産引受、事後設立及び現物出資の諸制度は、いずれも手続的に煩雑である上、企業活動の停止を伴う場合があるからである。そこで、まず現金出資により新会社を設立し、次に営業用の資産を新会社に譲渡するという方法での企業分割が行われることになった。
この点について、課税の現場においては、法人税法基本通達一○・七・一※が「法人が新たに法人を設立するために現物出資をすることに代えて金銭を出資し、その所有する金銭以外の資産をその新たに設立された法人に対してその設立後に譲渡した場合において」と規定するなど、変態現物出資がされた場合に対応すべき指針が定められている。
もっとも、変態現物出資は、会社分割に際して一般的に利用されているとはいえ、現物出資において必要とされる裁判所の選任による検査役の検査等がないなど、表現の適否はともかく、商法の規定を潜脱するものであることは明らかである。したがって、変態現物出資が常に現物出資と同視されるものではなく、それぞれの法律の規制の対象によって、その同視される範囲に差異が出てくることは当然あり得ることである。
(二) 本件においては、博多興産は、平成二年四月二六日、新たに金銭出資をすることにより被控訴人を設立し、同年五月七日、被控訴人に対し本件土地及び保有土地を代金合計一二億八八八五万一〇〇〇円で譲渡するとともに、山善に対する金一二億七八八五万一〇〇〇円の借入金債務を免責的に引き受けさせ、被控訴人から残金一〇〇〇万円の支払を受けている。他方、被控訴人については、設立時の資本金が一〇〇〇万円、本件事業年度の末日である平成四年三月末日における資本金も一〇〇〇万円であり、設立時には現金一〇〇〇万円が資本金に当てられていたが、本件変態現物出資によって本件土地及び保有土地を代金合計一二億八八八五万一〇〇〇円で譲り受けるとともに、山善に対する金一二億七八八五万一〇〇〇円の借入金債務を免責的に引き受けることにより、譲渡資産のうち一〇〇〇万円部分のみが資本金に当てられているにすぎない。
(三) 出資とは、事業を営むための資本として金銭その他の財産を出捐することであり、被控訴人においては、右のとおり、譲渡資産のうち一〇〇〇万円部分のみが資本に当てられているにすぎないから、変態現物出資であると認められるのは資本金一〇〇〇万円に相当する部分(自己資本部分)に限られるというべきである。
2 本件通達六二の二(1)・※三の要件について
(一) 措置法六二条の二第三項一号イは、他の者から贈与によって取得した土地のほか、出資により取得した土地を「新規取得土地等」から除外している。ここにいう出資とは現物出資のことであるが、これは、現物出資により法人が取得した土地は取得のための新たな資金コストは生じないから、かような場合にまでこの特例を適用するのはこの制度の趣旨に沿わないからである。
措置法六二条の二第三項一号イに規定する出資が現物出資に限るのか、変態現物出資も含まれるのか、含まれるとして如何なる要件を満たしたときに現物出資と同視し得るかについて規定した政令や規則は存しない。しかし、一つの用語の適用範囲あるいは解釈としてこれを定めた法令や通達が存する場合は、同じ税法の世界では、特段の事情のない限り、同一に解するのが相当である。
(二) ところで、原判決も認定するとおり、法人税法五一条一項は、親会社が、新たに子会社たる法人を設立するため発行済株式の一定割合以上を保有することになる現物出資(特定出資)をした場合に、取得した株式につき差益金の額として政令で定めるところにより計算した範囲内でその帳簿価格を損金経理により減額したときは、その減額相当の金額を損金に算入する旨を定めており、この課税の繰延べの規定の適用も、現物出資の場合ではなくても、実質的にこれと同視できるような変態現物出資の場合にも同項に含まれるものと解釈できる場合があり、それを定めたのが法人税基本通達一〇・七・一※である。そして、右通達の要件を充たすものであるときは、特定出資と同視して法人税法五一条による課税の繰延べを認めるとの扱いがされているところである。
そうすると、本件においても、法人税基本通達一〇・七・一※の要件を充たすものであるときは、特段の事情のない限り、法人税法五一条一項の要件を充たすものと認めるべきである。
(三) 本件通達六二の二(1)・※三は、法人税基本通達一〇・七・一※の要件に該当し(①要件)、かつ、法人税法五一条の規定の適用を受ける土地等の取得(②要件)は、措置法六二条の二第三項一号イの出資によるものに該当するものと定めている。
しかしながら、法人税基本通達一〇・七・一※の要件を充たすものであるときは、法人税法五一条一項の要件を充たすものと認めるべきであるから、②要件の法人税法五一条の規定の適用を受ける土地等の取得とは、法人税基本通達一〇・七・一※の要件を満たす土地の取得と解されるから、本件通達六二の二(1)・三※において、①要件該当性のほかに、更に②要件該当性を必要とすることは相当ではない。
(四) また、原判決も認定するとおり、法人税法五一条一項所定の圧縮記帳による課税の繰延べ措置と、措置法所定の負債利子の損金への不算入の問題とは、その趣旨も観点も異なるものであり、子会社についての右の負債利子の損金の不算入の要件としての出資の解釈に当たって変態現物出資を出資と同視できるかどうかの判断においては、親会社において右の課税の繰延べ措置があったかどうかの点は、特に意味を持たないものといわざるを得ない。
(五) 以上の事実によれば、本件通達六二の二(1)・※三の規定にかかわらず、少なくとも法人税法基本通達一○・七・一※の要件を充たす変態現物出資のうち自己資本部分については、「新規取得土地等」に該当しないというべきで、それに係る負債利子は、原則に戻って、当該年度の損金に算入できると解すべきである。
3 損金不算入額について
本件においては、右のとおり、被控訴人の本件土地及び保有土地(総額一二億八八八五万一〇〇〇円)の取得のうち自己資本部分に該当する一〇〇〇万円の部分は「新規取得土地等」に当たらないが、かかる場合の取扱いについて法令等に別段の定めはなく、この一〇〇〇万円が本件土地及び保有土地のいずれか特定の土地に対応するものであることを窺わせる証拠もないから、一〇〇〇万円を各土地の価格に応じて按分するほかない。
したがって、保有土地(土地一ないし一○)のそれぞれについて、本件土地及び保有土地の帳簿価格の合計額(一二億八八八五万一〇〇〇円)に一〇〇〇万円が占める割合に相当する部分が現物出資されたものであり、新規取得土地等に該当しないものとして計算することになる。
ところで、負債利子の損金不算入額の計算の基礎となる「基準取得価額」は、新規取得土地等の取得価額をベースに一定の調整を行って算出することとされている(措置法六二条の二第三項三号)が、本件においては、基準取得価額については当事者間に争いがないから、原判決添付別紙2の⑤欄(前期以前取得の新規取得土地等の基準取得額)記載の金額に前記割合を乗じたものを各保有土地の「基準取得価額」とみなして、損金不算入額の計算をすると、別紙1のとおり、本件事業年度における負債利子の損金不算入額は、六五四三万二二七九円となる。
4 超短期土地の特別税率の適用について
(一) 超短期土地の特別税率の規定は、土地の譲渡益について、投機的取引抑制の観点から、二年以下の超短期所有の土地に係る譲渡益については、通常の法人税とは別に三〇パーセントの税率による追加課税を行う制度であり、その適用対象となる土地の取得日は、別段の定めのあるものを除き、原則として現にその土地を売買、交換、出資等により取得した日と解される。
一方、土地の取得が、新たな法人の設立に当たり現物出資としての取得である場合には、措置法施行令三八条の五第一一項の規定により、一定の要件の基に、出資法人において法人税法五一条の規定に基づき圧縮記帳の適用の対象とされておれば、土地の取得日は、出資法人における取得日を引き継ぐことが認められている。
このことは、出資法人が従前から所有していた土地を引き続き所有しているとみなすことであり、圧縮記帳を条件に、新設法人が出資法人の帳簿価格の引継ぎと土地の取得日を引き継ぐことができるとしたものであって、このことは、特に、措置法施行令の規定により、右のような現物出資の場合の超短期土地の特別税率の適用を緩和・制限したものと解され、法の許容するところと解するのが相当である。
そして、このことは、現物出資と同視し得る実質を有した変態現物出資にも同様に妥当するというべきである。
(二) 本件においては、譲渡資産である本件土地及び保有土地のうち博多興産のした現物出資に相応する自己資本部分は、変態現物出資として認められるが、圧縮記帳の経理処理をしていないのであるから、措置法施行令三八条の五第一一項に該当しないといわなければならない。また、譲渡資産のうち残余価格部分は、単なる譲渡であって、変態現物出資には該当しないから、同規定の適用がないことは明らかである。
被控訴人は、少なくとも、特定現物出資の要件を充たしているときは、出資会社の圧縮記帳の税務処理の如何を問わず、被出資会社は受入資産について取得日を引き継ぐことができるものとすべきである旨主張するが、右主張は法令の根拠を欠くものであり、措置法施行令三八条の五第一一項の規定が超短期土地の特別税率の適用を緩和・制限したものであることにかんがみると、右主張は採用できない。
5 以上によれば、被控訴人の本件事業年度における差引き合計法人税額は、別紙2のとおり、①申告所得金額及び②新規取得土地等に係る負債の利子の損金不算入額の合計所得金額に対する法人税額九八三一万五〇〇〇円と⑤課税土地譲渡利益金額の合計額から控除所得税額八五万二二六六円を差し引いて一〇〇円未満の端数を切り捨てた二億〇九六七万六五〇〇円となる。
二 よって、被控訴人の本訴請求は、本件処分のうち、法人税額二億〇九六七万六五〇〇円を超える部分の取消し及び右部分に対応する過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求める限度において理由があるから右各部分を取り消し、その余の部分は理由がないからこれを棄却すべきところ、これと結論を異にする原判決は一部不当であるので、本判決主文第一項のとおり変更することとし、附帯控訴は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条一項、二項、六一条、六四条ただし書を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 根本眞 裁判官 鎌田義勝 裁判官 島田清次郎)